黄楊の年輪
はたして、
彼は綺麗なものに囲まれて、
目を輝かせながら持ち場を守っていた。
気取らない紳士は、
どこかで会った見知らぬ女が大した用を持って来ないのに
卒なくお話して帰してくれるわりと大きい器をもっていて、
しばしのひとときを安心して過ごすことができた。
スピネル男子は快活で元気そうだった。
その日は工芸が施された紳士雑貨の話をした。
地元の上空まで戻ってきたとき、
木製の櫛をたくさん持ったご年配男子に会った。
樹齢600年の木から作った黄楊(つげ)の櫛(くし)なんだと言って、
そのツゲ櫛男子はうねったカタチの櫛をたくさんたくさん並べて私に自慢した。
とっても自慢気だったので何十本もある中からひとつ手に取って眺めると、
それは何十、何百もの木の年輪が作った縞模様をしていて、
私はちょうど600年前のイタリアのことを思い出した。
つげ櫛おじさんはなおもいくつか私に見せながらまだなにか話をしていたけれど、
ルネサンスというキーワードを思い浮かべたまま、私はただぼんやりとしていた。
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